病院経営において、人件費は支出の中で最も大きな割合を占める費用です。そのため、経営を安定させるには人件費の適切な把握と管理が欠かせません。
ただし、人件費の管理は単に金額を削れば良いというものではなく、職員の配置バランスや業務効率化を含めて捉える必要があります。
この記事では、病院の人件費率の考え方や、医療の質を維持しながら適正化を進める具体的なポイントを解説します。
病院の人件費率と経営への影響
病院の人件費を管理する際は、医業収益に対して人件費がどの程度を占めているかを示す「人件費率」を確認しましょう。
まずは、人件費率の基本的な考え方と、人件費率が病院経営に与える影響について解説します。
病院の人件費率と高くなりやすい背景
病院の人件費率は、人件費を医業収益で割って算出する指標です。厚生労働省の資料では「給与費率」として、給与費を医業収益で割って算出する方法が示されています。
人件費率を計算する基本的な式は、次のとおりです。
人件費率=人件費÷医業収益×100
病院では、医師や看護師、薬剤師などの専門職を配置して診療を行います。患者の受け入れや病棟の運営には一定の人員が必要であるため、一般企業と比べても人材への依存度が高い業種です。
また、病院の機能や診療内容によって必要な職員数は異なります。入院医療を中心とする病院と外来診療を中心とする医療機関では、必要な人員配置や業務内容が同じではありません。そのため、人件費率は単純に高い・低いだけで評価するのではなく、自院の機能や職員配置、医業収益などと合わせて確認する必要があります。
参考:厚生労働省「調査の結果」
なお、以下の記事で病院の利益率の基本的な考え方や、経営改善に向けた取り組みなどを解説しています。
人件費率が高すぎる・低すぎる場合のリスク
人件費率は高すぎても低すぎても経営上のリスクを生じさせます。
人件費率が高すぎる状態が続くと、老朽化した医療機器の更新や施設改修といった設備投資に回す資金が圧迫されます。さらに医薬品や材料費の高騰に対する資金繰りの耐久力も低下し、結果として経営全体の柔軟性が失われます。
反対に、人件費率が低すぎる場合は人員不足や過重労働が発生している兆候です。必要な職員数が確保できていない現場では、業務負荷の増加による離職率の上昇や、疲弊に伴う医療事故のリスクが高まります。
このように、数値の絶対値だけで経営状態の良し悪しは判断できません。人件費率の数値とあわせて、現場の病床稼働率や職員の残業時間、業務負担の偏りを複合的に観察して改善策を講じる必要があります。
病院の人件費対策で注意したいポイント
人件費の膨張に課題を感じた際、十分な検証を行わずに急進的な対策を講じるのは危険です。ここでは、病院が人件費対策を進めるうえで陥りがちな注意点について解説します。
人件費率だけを基準に判断しない
人件費率の数値が高くても、それだけで「無駄が多い」と決めつけるべきではありません。人件費率が上昇している要因は、病院ごとの状況によって大きく異なるためです。
たとえば、手厚い看護体制を組んで病床稼働率や患者満足度を高めている病院もあれば、特殊な診療科を揃えているために専門医の人件費がかさんでいる病院もあります。表面上の数値だけを見て一律にコストカットを実施しても、根本的な課題解決にはつながりません。
対策を検討する際は、数値の裏側にある職種別・部署ごとの配置状況や、実際の業務量を細かく確認する必要があります。現場の運用実態と照らし合わせたうえで、適正なコスト水準を見極める手続きが必要です。
人員削減だけに頼らない
人件費を抑えるために必要な人員まで削減すると、残った職員の業務負担が増加します。業務量に対して職員数が不足すれば、時間外労働の増加や離職につながるほか、新たな人材の採用が必要になるケースもあります。
そのため人件費対策で大切なのは、職員数を減らすことだけを目的にするのではなく、限られた人材を効率よく活用することです。
たとえば、職員が手作業で行っている事務業務をシステムで効率化したり、医療職が担当している業務の一部を他の職種に移したりすることで、人員を維持しながら業務負担を減らすことができます。人件費の削減だけを見るのではなく、職員の配置と業務の進め方を見直すことが、人件費の適正化につながります。
医療の質を維持しながら人件費を適正化する方法
医療の質を低下させずに労務コストや業務負担を軽減する3つの具体策をみていきましょう。
業務プロセスの見直しとシステム活用
人件費を適正化するには、まず院内の業務プロセスを見直し、手作業や重複している業務を減らすことが有効です。ポイントは、システムを導入するだけではなく、システム導入を前提として業務そのものを整理することです。
たとえば、勤怠管理をシステム化すれば、職員の勤務時間や休暇などの管理にかかる事務作業を効率化できます。問診システムを活用すれば、患者が入力した情報を受付担当者が手作業で転記する作業も減らせます。
このように、これまで職員が時間をかけて行っていた定型業務を効率化することで、事務作業や時間外労働の削減につながります。まず現在の業務を洗い出し、どの作業をシステム化できるかを検討することが大切です。
バックオフィス業務の外部リソース導入
総務・人事・経理といった直接治療に関わらない事務作業(バックオフィス業務)には、外部委託や専門のサポートサービスを活用するのが有効です。
病院の現場では、医療職や事務職員が毎日の決まった事務作業に時間を奪われ、本来力を入れるべき業務を圧迫しているケースが多く存在します。こうした事務作業を外部の専門サポートへ任せることで、院内の大切な職員を診察や患者さんの対応といった本来の業務へ集中させられます。
外部サポートを導入する際は、まず自院の業務を「院内の職員でなければ対応できない業務」と「外部へ任せられる業務」に切り分ける整理作業から進めましょう。院内で抱え込む業務量を適正にコントロールすることが、無駄な人件費を抑えることにつながります。
タスクシフトによる業務分担の見直し
医師や看護師などの専門職が、その専門性を必要としない業務まで担当している場合は、業務の移管によって人材を有効活用できます。業務内容を整理し、対応可能な業務を他職種や事務職などへ移すことで、医療職が専門性の高い業務に集中できる体制を整えましょう。
たとえば、医療職が担っている事務作業や定型的な業務について、資格や専門的な判断を必要としないものを切り分けます。そのうえで、担当できる職種へ業務を移管すれば、特定の職員に業務が集中する状態を改善可能です。
タスクシフトでは、単に業務を別の職員へ移すのではなく、それぞれの職種が担う業務を明確にする必要があります。職員の専門性を活かした業務分担によって、医療の質を維持しながら人材を効率的に活用していきましょう。
病院の人件費のまとめ
病院の人件費対策で大切なのは、単に金額や人員を減らすことではありません。人件費率の数値を正しく把握し、システム活用や外部委託、タスクシフトによって「現場の業務負担を減らすこと」が本質的な解決策となります。
一律のコストカットではなく、業務の進め方を見直して限られた人材が力を発揮できる環境を整えましょう。
「自院の人件費率が適正か分からない」「業務効率化やバックオフィスの見直しをどう進めるべきか悩んでいる」という場合は、専門家へのご相談がおすすめです。
株式会社UPASでは、医療機関の活性化に向けた経営コンサルティングをはじめ、現場の負担を減らす効率化システムの開発、人手不足を解決するバックオフィスサポートをワンストップで提供しています。まずは現状の課題整理から、お気軽にご相談ください。
なお、以下の記事で病院の経営に影響を与える主な課題や改善の方向について解説しています。