病院では、診療記録や同意書、申請書、会議資料など、多くの紙の書類を扱います。紙の書類は印刷や保管に手間がかかるほか、必要な情報を探すのに時間がかかるという課題があります。こうした業務を効率化する方法が、書類を電子データで管理するペーパーレス化です。
ただし、紙での運用が定着している病院では、電子化への移行が簡単に進まない場合もあります。
この記事では、病院でペーパーレス化を進める際に直面しやすい課題を解説します。
病院でペーパーレス化を進める際の課題
病院でペーパーレス化が進みにくい背景には、医療現場ならではの運用方法やシステム環境が関係しています。
では、具体的にどのような問題が障害になっているのかをみていきましょう。
現場の抵抗感や紙での運用習慣
医療現場でペーパーレス化が進まない大きな理由は、紙を用いた業務フローの定着です。
医師や看護師などの医療従事者は、紙のカルテや伝票に直接手書きする運用に慣れています。紙の書類は視認性が高く、持ち運びも容易なため、業務の中で使い勝手の良さを感じるスタッフが多く存在します。そのため、システムへのデジタル入力に切り替える際、「入力に時間がかかり診察業務に支障が出るのではないか」といった懸念が生まれます。
また、紙の原本に対する強い安心感もひとつの理由です。「物理的な紙として保管していなければ、万が一のシステム障害やデータ消失の際に確認できなくなる」という心理的な不安が、電子化への移行を遅らせる原因になっています。
システム連携や運用ルールの未整備
電子カルテと部門ごとのシステムが連携していない場合、電子データを別のシステムへ転記したり、情報を紙に印刷して受け渡したりする作業が残ります。厚生労働省も、病院内の電子カルテと部門システムの連携仕様の標準化を課題として挙げています。
さらに、電子化した書類の保存場所や閲覧権限、承認手順などが決まっていないと、必要な情報を探せなくなったり、適切な管理が難しくなったりします。
システムの導入とあわせて、書類の作成から承認、保存までの流れを整理し、職員が共通のルールで運用できる体制を整えなければなりません。
なお、病院全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やメリットについては、以下の記事で解説しています。
▶医療DXのメリットとは?病院経営と医療現場にもたらす効果を解説
参考:厚生労働省の関連資料
病院におけるペーパーレス化の対象とメリット
続いて、電子化できる主要な書類と、導入によって生まれる2つのメリットについて解説します。
問診票・同意書・院内事務書類などの電子化
病院で電子化が可能な書類は、医療現場での「患者対応書類」と管理部門での「院内事務書類」の2つに大きく分けられます。
患者対応書類では、外来で記入してもらう問診票や、手術・検査時に必要な各種同意書が主な対象です。問診票をタブレット端末に入力してもらう運用に変更すると、患者が記入したデータが電子カルテへ取り込まれます。同意書についても、電子タブレット上でサインを取得し、そのまま患者情報と紐づけてシステム内に保存する仕組みを構築可能です。
一方、院内事務書類では、稟議書や交通費の精算書、各種届出などのバックオフィス書類が対象です。これらを電子決裁システムへ移行すると、従来の紙による回覧や印鑑の押印作業が不要になり、申請から承認までの手続きがWeb上で完了します。
受付やバックオフィス全般の業務効率化については、以下の記事も併せてご覧ください。
業務負担の軽減と印刷・保管コストの削減
ペーパーレス化には、書類の管理にかかる作業時間と費用を削減できるメリットがあります。
紙の書類は、印刷や配布、ファイリング、保管場所への移動などに手間がかかります。電子データで管理すれば、キーワードや文書名から必要な情報を検索できるため、書類を探す時間の短縮につながります。また、部門間での情報共有もスムーズになり、書類の受け渡しや確認にかかる負担を減らせるでしょう。
さらに、用紙代やトナー代などの印刷費用に加え、書類を保管するキャビネットやカルテ庫、外部倉庫などにかかる費用も削減の対象です。保管スペースに余裕が生まれれば、院内のスペースを別の用途に活用しやすくなります。
ただし、システムの導入費や保守費用、運用に必要な人員の負担も発生します。ペーパーレス化による効果を把握するには、削減できる費用だけでなく、導入後にかかる費用も含めて比較するようにしてください。
病院のペーパーレス化を進める3つのステップ
病院のペーパーレス化を成功させるには、全館で一斉に紙を全廃するのではなく、適切な手順を踏んだ計画的な推進が必要です。
現場の混乱を最小限に抑えながら運用を定着させるための、3つのステップについて解説します。
現状の書類業務を洗い出し優先順位を決める
まずすべきことは、院内で流通しているすべての紙書類を洗い出し、導入の優先順位を決定することです。
各部署で発行・保管されている書類の種類、発行枚数、実際の運用フローを棚卸しします。その際、「どのような目的で紙が出力されているか」そして「電子化した場合に現場へ及ぼす影響度」を項目ごとに可視化しましょう。
その後は、影響の少ない領域から優先的に着手する「スモールスタート」が有効です。臨床現場(病棟・外来)に直接関わる書類は運用の変更による負担が大きいため、まずは総務や経理といったバックオフィス業務の稟議書や申請書から電子化を進めましょう。
影響範囲が限定的な部署で運用実績を作り、ノウハウを蓄積してから医療現場へ展開するようにします。
システムを選定して運用ルールを整備する
続いて、医療現場の運用に合致したシステムを選び、法的な要件を網羅した運用ルールを策定します。
システム選定時は、医療機関特有の業務に対応しているかどうかが判断基準です。特に患者の同意書を扱う場合、タッチペン等による電子署名機能や、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠したアクセス権限管理・ログ監査機能の有無を確認しなければなりません。既存の電子カルテや部門システムとスムーズにデータ連携できるかどうかも精査しましょう。
システム選定と並行して、書類ごとの保管・廃棄ルールを明確に定めます。医師法や医療法などにより、文書の種類ごとに法令で定められた保存期間が存在するためです。
また、電子帳簿保存法への対応や、同意書の電子化におけるタイムスタンプの要件など、各文書の法的性格に応じた取り扱い基準を規定化する必要があります。
「原本として保存すべき書類」と「電子化して即座に破棄できる書類」を明確に分類した規程を作成してください。
なお、ペーパーレス化と合わせてシステム上で一括管理したい施設基準の運用については、以下の記事をご確認ください。
職員への周知・研修を行い段階的に導入する
システムを導入する際は、職員への説明や操作研修を実施し、利用方法を周知しましょう。操作マニュアルを作成し、よくある質問やトラブルへの対応方法をまとめておくと、導入後の混乱を防ぎやすくなります。
また、操作に不慣れな職員が相談できる担当者を決めるなど、現場を支援する体制も整えます。導入後は、作業時間や紙の使用量、職員からの意見などを確認し、必要に応じて運用を見直すようにしてください。
一部の業務で問題なく運用できることを確認してから対象範囲を広げれば、病院全体への定着を進めやすくなります。
病院のペーパーレス化のまとめ
病院のペーパーレス化は、業務フローの最適化と管理コスト削減を同時に実現する取り組みです。
紙運用の習慣やシステム未連携といった独自の課題があるため、一括導入ではなく、バックオフィスなどの小さな単位から段階的に定着させるようにしましょう。
もしも自院のみで棚卸しやルール策定を進めるのが難しい場合は、外部の専門的サポートを活用することも検討してみてください。
株式会社UPASでは、医療機関向けの経営改善コンサルティングやシステム導入支援を行っています。ペーパーレス化の推進にお悩みの際は、お気軽にご相談ください。